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2021.09.30 (木)

「 自民総裁選、河野氏への二つの大疑問 」

『週刊新潮』 2021年9月30日号
日本ルネッサンス 第968回

自民党総裁選は9月29日の投票に向けて論戦が本格化した。河野太郎、岸田文雄、高市早苗、野田聖子四氏の中から次期首相を選ぶ。

まず指摘したいのは野田氏の規格外れだ。4度目の挑戦となった今回までの年月、彼女は何をしていたのか。首相たらんと志を立てたのなら、なぜ年月を無為に過ごしたのか。安全保障、経済、外交、医療、どのテーマでも他の三候補と議論を交わすレベルに達していない。

この人になぜ、二階俊博幹事長は8名もの議員を派閥から出して支えたのか。9月17日の「言論テレビ」で「正論」発行人の有元隆志氏が、二階氏は自身の影響力を温存するために野田氏に協力したと解説した。

「野田氏の出馬で割を食うのは河野氏だと見られています。野田氏が河野票を少しでも削ればそれだけ接戦になり、二階氏の力がキャスティングボートになってくるのです」

野田氏が首相の器か否かが関心事なのではなく、二階氏自身の立場を高く売りつけるための思惑が透けて見える。このような人々が党中枢部に居座り続けるとしたら、自民党の未来は本当に危うい。

残り三氏の政策や考え方を見る上で印象深い場面があった。そのひとつが19日のフジテレビ、「日曜報道」での一幕だ。米軍が対中戦略の一環として考えている中距離ミサイルの配備について、キャスターの松山俊行氏が問うた。

「米側から正式要請があった場合、総理になった時に配備受け入れを判断される方、挙手をお願いします」

折しも今月13日と15日、北朝鮮が続けざまにミサイルを発射した。菅義偉首相は日本の排他的経済水域(EEZ)外に着弾したと語ったが、8時間後、岸信夫防衛大臣が「EEZ内」に着弾、と訂正した。つまり、わが国は北朝鮮のミサイルを追跡できていなかった。北朝鮮のミサイルが定められた軌道を飛ぶ弾道ミサイルではなく、攻撃直前、変則的に動いて軌道を変える新型だったからだ。

正反対の論陣

北朝鮮だけでなく、中国もロシアも保有するこのタイプのミサイルで攻撃されたら最後である。極めて深刻な事態だ。現時点では米国にもわが国にも迎撃する手立てはない。だからこそ、十分な抑止力を持つことで彼らに攻撃を思いとどまらせることが欠かせない。その意味で非常に適切な問いだった。

ここでさっと手を挙げたのが高市氏だった。

「日本国を守るために必ず必要だと思います。一昨年エスパー国防長官がアジア地域に配備すると言っていましたが、むしろ積極的にお願いしたい話です。今アメリカが開発中の長距離のミサイルであれば、中国ほぼ全土の航空基地に対して効果があります。これも含めて考えていく必要があると思います」

氏はミサイルを国産化できれば最もよいと語った。だがここで正反対の論陣を張ったのが河野氏だった。

「抑止力を考えたときに、必要なのは日本が自分の指で引き金を引けるかどうか。アメリカだけが引き金に指をかけているミサイルを日本に置いたからといって、日本の抑止力が高まるわけではありません」

対中抑止力について、「もう少し慎重に議論をした上で日米の役割分担を決めること」「日米同盟全体の中で抑止力をどう高めていくか」の議論が先だとし、「よくある敵基地何とか能力みたいなものは、(中略)かえって(状況を)不安定化させる要因になるわけです」として、高市発言を次のように論難した。

「勇ましい、やれやれ!というような人が喜ぶだけで、日中関係、或いは日米と中国の安定につながる議論では全くないと思います」

ここで高市氏も反論した。

「勇ましい、やれやれ!という話ではございません。日本国民の命と領土を守るために絶対にこれは必要だと思っております。当然、日本は文民統制ですので、引き金をアメリカに引かせるということではなく、導入するということが決まった時点でこのルールはしっかりと話し合っておくべきです」

米軍はいま大急ぎで中距離ミサイルを準備中だが、わが国への配備は北朝鮮にも中国にも強い抑止力となる。中距離ミサイルの配備を受け入れるのがわが国の国土防衛であり国益である。そもそも菅首相は、4月16日の日米首脳会談で「米国と共に抑止力と対処力を強化する」「日米同盟をさらなる高みに引き上げる」と明確に述べた。

菅首相が誓約したことは、日本のためにこそ実行すべきであろう。その具体策が北朝鮮や中国の脅威を抑制する中距離ミサイルの配備でもあろう。日本国を守るためにも必要だという高市氏の主張の方が、日米同盟全体で抑止力を高めるという河野氏の抽象論よりよほど説得力がある。

思い込みや虚偽が目立つ

もうひとつの見所は、18日土曜日に日本記者クラブで行われた討論会での一幕だった。エネルギー問題で河野氏は「原子力発電よりも再生可能エネルギーの方が安いことが明確になりました」と語った。これは7月12日に経済産業省が発表した2030年時点でのコスト比較だ。しかし、この数字には太陽光などの自然再生エネルギーに関して、バックアップに必要な火力発電を確保する費用が入っていなかった。太陽光や風力の変動を吸収する大容量の蓄電池などの費用も、変動する再エネのピーク時出力に備えての大送電網整備の費用も、何もかも全く入っていなかった。経済産業省はこの数字について後に正式に訂正した。

河野氏がこのことを知らないはずはない。氏は間違いを承知で断言しているのではないか。だとすれば氏の言葉は「虚偽」である。

氏はこれまでも発言し続けてきた核燃料サイクル廃止論も繰り返した。これに岸田氏が反論した。核燃料サイクルを止めれば青森県六ヶ所村の再処理工場も止まり、原子力発電から生まれる使用済み燃料の再処理ができなくなる。すると、原子力発電所の使用済み燃料を貯蔵するプールが一杯になり、原子力発電所は運転停止に追い込まれる。再処理の最終段階で生まれる高レベル廃棄物の無害化には10万年かかるといわれるが、これを300年に短縮する技術も生まれてきている。

こうした主旨を、岸田氏は指摘しようと試みたが、河野氏は、「現時点ではそういう技術はありません」とピシャリと否定した。だが、すでにGE・HITACHIニュークリア・エナジー社は小型高速炉(プリズム)を開発済みで、これによって高レベル廃棄物の有害度を低減できる。つまり300年で無害化する技術は実証されているのだ。この点でも河野氏は間違っている。

国防とエネルギーという国家の根本をなす問題について、河野氏の主張は思い込みや虚偽が目立つ。河野氏の総理総裁としての資格を疑うものだ。

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